シングルモルトと、ブレンデッドウィスキーの違いとは?

よく考えればどうでも良いかもしれないが、ふと気になってしまう、「シングル・モルト・ウィスキー」と「ブレンデッド・ウィスキー」の違いを解説する。

ちょっと気になる“その違い”

シングル・モルトとブレンデッド、ひとことで言えば何が違うか?

ひとことで正確にいえば、「かかわった蒸留所の数がちがう」となる。

シングル・モルト・ウィスキーの「シングル」は「ひとつの蒸留所」を意味する。手に取ったそのひと瓶の中身が、ひとつの蒸留所から生まれたものならば、それはシングル・モルト・ウィスキーだ。

対してブレンデッド・ウィスキーは、ふたつ以上の蒸留所が関わっている。いろんな蒸留所のウィスキーを混ぜ合わせ、ブレンドしたものだ。手に取ったひと瓶の、その中身をつくり上げるのに、数十の蒸留所が関わっている場合もある。つまり、複数の蒸留所のウィスキーをブレンドすれば、ブレンデッド・ウィスキーとよばれる。


流通量はどっちが多い?

圧倒的にブレンデッド・ウィスキーの流通が多い。世界のウィスキーの流通量の8~9割はブレンデッド・ウィスキーと言われている。100~200年ぐらいのウィスキーの歴史の中では、ブレンデッドが王道なのだが、最近になって「蒸留所ごとの個性を愉しむ」シングルモルトも伸びてきている。


ちょっと待って。さっきからシングル・モルトの「モルト」ってなに?

モルトとは、大麦麦芽(おおむぎばくが)のこと。これがモルト・ウィスキーの原料。モルトを原料としたウィスキーだから、モルト・ウィスキー。地域でいえば、日本やイギリス(スコッチ)、そしてアイルランドでは、ウィスキーといえば、モルト・ウィスキーのことを差している。
(ちなみにカナダでウィスキーといえば、ライ麦が主原料のライ・ウィスキー。アメリカでウィスキーといえば、もちろんトウモロコシ主原料のバーボンウィスキー)
シングル・モルトとは何か?についてはこちらの記事を参照してほしい。


ブレンデッドの立役者、「グレーン」ってなに?

「安くて美味いウィスキーをつくる手段はないものか」と考えていくと、グレーン・ウィスキーに突き当たる。グレーン・ウィスキーは、安くつくれる。モルト(大麦麦芽)以外の穀物(主にトウモロコシ)でつくるウィスキーのこと。ただし、モルトのような強い香りの個性はない。
ブレンデッド・ウィスキーの場合、ほとんどがモルト・ウィスキーと、グレーン・ウィスキーを混ぜている。いくつかのモルト・ウィスキーで香味の方向性を決めて、グレーン・ウィスキーでバランスを調整するのだ。映画にたとえれば、ギャラの高い主役がモルトで、主役を支える立役者がグレーン・ウィスキーだ。

このウィスキーという名前の液体に、
そんなに種類があるなんて・・・

ちなみに、「ピュアモルト」ってなに?

日本に流通している言葉で、「ピュアモルト」がある。これは、大きな分類の中ではブレンデッドウィスキーなのだが、グレーン・ウィスキーをつかわず、モルト・ウィスキーだけでブレンドしました、というアピールだ。主役級が勢ぞろいの映画みたいなものだ。日本にはどうも純粋信仰みたいなものがあるので、「シングル」とか「ピュア」とか言うと、ありがたい、と感じる人が多いため、この言葉は、ウィスキーのまじめな分類というより、ほとんどマーケティング用語である。


もひとつちなみに、「ヴァテッドモルト」ってなに?

今はあまり使わない表現。ピュアモルトと同じ意味。モルト・ウィスキーと別のモルト・ウィスキーをまぜあわせて作ったウィスキーのこと。「もうそれ、ブレンデッド・ウィスキーでいいじゃん」ってことで、数年前からスコッチウィスキー協会が「もうヴァテッドって言葉はやめよう、ブレンデッドで統一!」と宣言。
(テクニカルに言えば、シングル・モルトもヴァッティングするし、ピュア・モルトもヴァッティングするので、両方ヴァテッド・モルトと呼べてしまって、超ややこしい。忘れてください)
※WWA(World Whisky Award)では、モルト・ウィスキーだけをブレンドしたウィスキーのことを、「ピュアモルト」とも「ヴァテッドモルト」とも言わず、「ブレンデッド・モルト」と表現。


結局、シングルモルト・ウィスキーとブレンデッド・ウィスキーの違いを知ってどうする?

正直な話、「へぇ~」といえるトリビア以上のなにものでもない。シングルモルト・ウィスキーといえども、ひとつの蒸留所の複数の樽の原酒をブレンドしているし、ブレンデッド・ウィスキーはブレンドする地域・種類の幅を広げただけだ。
いずれにせよ、最終的にウィスキーをつくるマスターブレンダーの卓越した鼻によって、今日も素晴らしいウィスキーがこの世に生み出されているのだ。それは本当に神秘的な世界だと、私は思う。マスター・ブレンダーの生み出す豊かな香りの世界観に、私たちは酔う。


グラスを傾けながら、ウィスキーの成り立ちについて少し思いを馳せるのも、楽しいかもしれない。
今宵もすてきなウィスキー・ライフを。



4 件のコメント:

  1. はじめまして。ブラントンについて調べていてこのブログに行き当たりました。若い頃から飲み始めたビールをスイミングプール一杯分ぐらいお腹におさめた最近になってやっとウイスキーが美味しいと思えるようになりました。yujiさんの読みやすくてわかりやすくて美しい文章に惚れ惚れしながらウイスキーに関する知識を身につけさせてもらってます。ありがとうございます。

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    1. ご覧いただいてありがとうございます!

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  2. 一つ質問。

    ニッカの宣伝によれば、多段式蒸留器を使用したグレンは味香が薄い。だからばテッドモルトとブレンデッドは区別するべきである、とのこと。
    実際にグレンの割合が多い1000円級は、ひたすら薄いと思います。かつてては等級によってモルトの含有率が法定されていました。

    おなじことはブランデーにも言えます。高価なアルマニャックやコニャックを名乗るには多段式蒸留器の使用は禁止されています。日仏の2000円位の公表かなブランデーをコニャックと比べれば、差は歴然。ひたすら薄いです。

    その辺は以下がお考えでしょうか。

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    1. 蒸留器の違いによる味の違いはあると思います。
      ただし、私は作り手ではないので、詳しいことはわかりません。一種のロマンのようなものとしてとらえています。
      とはいえ、雑味が多いグレーンがうまく熟成すると、やはり美味いと思います。

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