ウィスキーの保管の仕方:テクニック編

この記事は、自宅でウィスキーをいかに保存するかのテクニックについて紹介する記事だ。(保管の理論を紹介したロジック編はこちらを参照してほしい)
家飲みのウィスキーのための、5つの保管テクニックは下記の通り。

共通ポイント:香り分子を変質させない・逃がさない

どの方法もポイントは、ウィスキーを紫外線に当てず、酸素に触れさせず、ウィスキーの香りを逃がさないということだ。簡単に実践できるものから順に紹介する。


その1. 「光が届かない、もっとも涼しい場所」で保管する※ただし冷蔵庫以外

ウィスキーは、自宅の中で、光がまったく届かず、一番涼しい場所で保管しよう。ただし、この定義だと冷蔵庫も当てはまってしまう。冷蔵庫は考え物だ。他の香りがつく心配もあるし、冷えすぎてしまう。また、都度冷蔵庫から出して飲む際のタイムロスや温度変化を考えると単にまどろっこしい。気をつけなければいけないのは紫外線を発生させるモデルの冷蔵庫では、ウィスキーの香り分子が変質してしまう危険性が高い。(※冷蔵庫はNGだが、15℃程度に温度設定できるワインセラーなら理想的といえる。ただ、ウィスキーはタフな酒なので、気を遣ってもワインほどの変化はない)


その2. 箱に入れて保存 

ウィスキーを買ったときの箱にそのまま入れて保管するのはオススメだ。大抵、光を遮断してくれるし、多少の衝撃も吸収してくれて安全だ。(少し場所をとるのがやや難点)

大切なウィスキーの箱を取っておこう

光を遮断できる

※より完璧な遮光(紫外線対策)を目指すなら、アルミシートやアルミホイルを使うのが手軽だ。箱の内側に貼ってあればもうほぼ完璧といえるだろうし、ボトルそのものに巻きつけたり、ボトルを格納する場所にどうしても一部光が入る場合もアルミホイルで塞げばいい。(商品:クッキングホイル 30cm×50mC)。


その3. パラフィルムを使ってボトルを密封

ボトルとボトルキャップとのわずかな「間」から、アルコールが抜けたり、外の空気が入ったりするのを防ぐのが、パラフィルムだ。(商品:エル・エム・エス パラフィルム4インチ 長さ125フィート PM996
もともとは実験室で使われる素材だが、多くのバーで使用されている。小さく切って、少し伸ばしながら巻きつける不思議な素材。これを使っているかどうかで、香りを愉しめる期間がかなり違う。

巻き付け方の詳細は動画で見られるようにした。


パラフィルムをこれぐらいに切って

引っ張りながら巻く

巻き終わった。これで密閉。


その4. 小瓶に移し変えて、空気の量を減らす

ボトル自体をどんなに密閉しても、ボトルに含まれる空気(≒酸素)がウィスキーの香り分子を酸化させる。だから、小瓶に移し変えてしまえばいい。小瓶と移し変える手間がすこしかかるが、かなり効果的な方法だ。

詳しい解説は動画を見てほしい。

参考:動画中の「密閉タイプの瓶」はこちら(『ボルミオリ・ロッコ』 スイング ボトル 0.25L
参考:動画中の「イチョウ型の“ろうと”」はこちら(シリコン漏斗 イチョウ グリーン 07438
※この“ろうと”は収納に便利。しかしもっとデザインを気にしなければ百均にもあり機能は一緒。


その5. プライベート・プリザーブで酸素からの遮断層をつくる

プライベート・プリザーブはもともとワイン用の商品だが、原理はごくシンプル。ウィスキーのすぐ上にガスの層を作ってしまって、酸素とウィスキーを隔離するものだ。多くのワイナリーで採用されている。(商品:プライベート プリザーブ private preserve
3~4回、シュッ、シュッと吹き込めばOK。割合に手軽な方法だが、頻繁に飲む人はやや面倒に感じるかもしれない。

使い方の詳細は動画を見てほしい。



その6(奥義):さっさと飲む

どのような保管方法も、この方法にはかなわない。どのような方法も時をとめることはできないが、時間とともにウィスキーの香りは失われていく。
栓を開けてから2~3日はどんなウィスキーもほぼ同じクオリティで飲める。ただ、1週間以上になると、徐々に変化がある。その変化を愉しむ、という発想もあるが、出来る限り豊かな香りを愉しもうとするなら早く飲むに越したことはないのだ。
だが、それができないから、さまざまな保存方法を、われわれは頭をひねって生み出している(それで開栓後も数ヶ月はいける)。いずれにせよウィスキーを飲むときに「完璧」はあり得ない。あれこれしても、最後はどうかおおらかな心でウィスキーの香りを存分に愉しんでほしい。

ちょっとやそっとではその魅力は失われないのが、ウィスキーという酒のタフなところだからだ。





ウィスキーの保管の仕方:ロジック編

ウィスキーをおいしく飲むために、どのような保管が望ましいだろうか?
せっかく家飲み用に買ったウィスキーのボトルも、しらばく経ってから飲むと、肝心の香りが失われていることがある。それはもしかしたら、保管・保存方法に問題があったのかもしれない。そうならぬよう、この記事の知識が役に立てば嬉しい。尚、手っ取り早くテクニックだけ知りたい方はテクニック編を参照してほしい。



大前提としてウィスキーはとてもタフな酒

ただ、まず最初に断っておきたいのは、ウィスキーはタフな酒であるということ。他の酒と違って、少々のことでは劣化しないし、身もフタもないのだが、そもそも完璧に劣化を防ぐ方法は「時を止める」しかない。時とともにすべてが変化するから、完璧な保存方法なんてあり得ない。そんなわけで、気にしすぎず、どうかおおらかに飲んでほしい。

ウィスキーのボトルを買って、ウィスキーの“何を”保存すべきか?

ウィスキーの何を保存するかをハッキリしておこう。ずばり、それは「揮発性物質」だ。分かりやすくいえば「香り物質」。分子レベルの物質が、嗅覚を刺激することで、ウィスキーは飲む香水となる。これは1本のボトルの中に測定不能なほど、たくさん含まれているが、空気中に漂うものだ。だから、逃げていくものでもある。また、酸素と結合したり、紫外線を浴びれば、別の物質になってしまう。
だからウィスキー保存の基本的な考え方は、揮発性物質を紫外線や酸素に触れさせないということだ。


大敵なのは日光と空気だから、遮光と密封が大切

太陽の光に含まれる紫外線の光エネルギーは強く、ウィスキーボトルの分厚くて暗い色のガラスも容易に貫通し、中身に変化を与えてしまう。だから、ウィスキーは「絶対に太陽光の当たらないところ」に保管する必要がある。直射日光はもちろん、「太陽の光によってうっすら明るい部屋」に置くのもNGだ。
また、ウィスキーを余計な空気に触れさせないため、ボトルの栓をしっかりする必要がある。これについてはいくつかテクニックがあるので、後ほど「テクニック編」で触れたいと思う。

よく言われる“冷暗所”の定義は曖昧だし、現実的ではない

「ウィスキーは冷暗所で保管しましょう」とよく言われる。この曖昧な説明は、理系の人たちからの「冷暗所って何度だよ!」というツッコミとセットだが、一応定義を調べてみた。
日本工業規格(JIS K0050 化学分析方法通則)によれば「冷所」とは1~15℃を指す。ただしこれをそのままウィスキーに当てはめるべきでないと私は考える(もちろん理想的ではあるが)。しかし、何℃なら良いのか?というギモンの参考値としては、ウィスキー蒸留所の気候がヒントになるはずだ。アイラ島の夏の気温は20℃程度、北海道の余市では30℃程度、このことから、理想的には20℃程度、許容範囲は30℃以下だろうか、できれば30℃を超える日は多くないほうが良い。

ただ、このように温度の定義を考えるとき、いつも思うのは「日本の住宅でこの定義がなんの役に立つだろうか?」ということだ。ウィスキーのために「冷暗所」をわざわざ設置するのはほとんどの人にとって非現実的だし、仮に冷蔵庫に入れたとしても、冷えたウィスキーを常温にもどす時間がまどろっこしく感じてしまうだろう。
そんなわけで、当ブログではウィスキー保管の定義を明確に新しくしてしまう。

「あなたの自宅のもっとも涼しい場所」

に保管してください、と。前述のようにウィスキーとはタフな酒であるし、これ以上に現実的な定義はないだろう。(もちろんこのアドバイスはあなたのウィスキーが劣化しないことを保証するものではない)

さらに付け加えるなら、強い香り(=別の香り分子)のある場所での保管はオススメしない。完璧な密閉はあり得ないので、他の香り(防虫剤、唐辛子、等など)がないところが良いだろう。


ウィスキー保管のロジックまとめ


  • 香り分子を「変質させない
    • ウィスキーを酸素に触れさせないこと
    • ウィスキーを紫外線に当てないこと
  • 香り分子を「逃がさない
    • ボトルは出来うる限り密封状態を維持すべきである
  • ウィスキーに変化を生じさせる不利な状況を作らないこと
    • 強い匂いがない場所で保管されるべきである(他の香り分子がウィスキーの中に溶け込むとよくない)
    • 年間を通じて20℃程度(20℃±5℃、あるいは30℃以下)の場所での保管望ましいが、実際には「あなたの自宅のもっとも涼しい場所」(冷蔵庫を除く)での保管が現実的である

以上、ウィスキーの保管になにが大切であるかがわかってもらえたと思う。
これらの知識を参考に、今宵も楽しい家飲みライフを。


参考)ウィスキーの保管の仕方:テクニック編



レビュー:リトルミル 1990 20年 WA & 3R ぬくもりのあるアニメーションのような

LITTLEMILL 1990 20yo The Whisky Agency & Three Rivers(リトルミル 1990 20年熟成 ウィスキー・エージェンシーとスリー・リバースの共同リリース)を飲んだ。83点。
リトルミルはイギリスのスコットランド、ローランド地方の蒸留所。でもすでに閉鎖している。もともと生産量も多くないが、今後ますます見ることが少なくなるだろう。

リトルミル1990 20年熟成

【評価】
グラスから立ち上るのは、穏やかで爽やかな草原を思わせる、うまみのある麦の香り。馬で駆け抜けるような躍動感。
口に含めば、鉛筆画の小品を見ているような印象。壮大ではないが、繊細さと素朴さを味わう。みずみずしいタッチで先ほどの馬に乗って駆け抜ける姿が浮かぶ。オイリーな木枠。
まるで線画を複数毎つなげ合わせた、原始的でぬくもりのあるアニメーションを見ているかのようなウィスキー。

【Kawasaki Point】
83point

【基本データ】
銘柄:LITTLEMILL 1990 20yo(リトルミル 1990 20年熟成)
地域:Lowland, ローランド
樽: Sherry, Oak, シェリー、オーク
ボトル:The Whisky Agency & Three Rivers ウィスキー・エージェンシーとスリー・リバースの共同リリース

リトルミル蒸留所が閉鎖される2年前の1990年蒸留

鉛筆画の小品を見ているような印象




レビュー:アードベッグ 2007年 SMWS 33.118 心配無用

Ardbeg 2005 7yo SMWS 33.118(スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティのアードベッグ 2005 7年熟成)を飲んだ。88点。
ソサエティは世界最大のウィスキー愛好家団体で、そのボトルはどれも同じ色と形だが、毎回かならず詩的なタイトルがつく。今回のこのウィスキーに付けられたタイトルは「Goodbye to care」、訳せば「心配無用」、といったところか。

時には静かにグラスを傾けて、「心配無用・・」と心の中でつぶやいてみたくなることが、誰にもある。悪い未来ばかりを想像していたとき、ふとわれに返って、その想像を止めてしまえばいい、そうすれば案外未来は明るいものじゃないか、と思い出させるシンプルな力が、この言葉に宿っているような気がする。

さてはて、このウィスキーの香味やいかに。

ソサエティのアードベッグ、心配無用。

【評価】
その香りは、柑橘、ジンジャー、使い古した皮とタンニンの効いた赤ワイン。湿地の土。
ひとたび口に含めば、香りの爆発と夏草。この爽快感は青空。皮と火薬と金属、そして木。
木炭画で描かれた「夏の農夫の一日」。

【Kawasaki Point】
88point

【基本データ】
銘柄:Ardbeg 2005 7yo SMWS 33.118(スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティのアードベッグ 2005 7年熟成)
地域:Highland, ハイランド
樽: 1st fill Barrel, Bourbon,  バレル ファーストフィル、バーボン
ボトル:Scotch Malt Whisky Society スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティ

時にはショットグラスで・・


この爽快感は青空。「夏の農夫の一日」